日刊パセオフラメンコ

2017年11月28日 公演忘備録のフライング掲載

★月刊パセオフラメンコ2018年1月号(12/20発売)
公演忘備録(以下の6本掲載)の一部フライング掲載です
1007(土)エル・ファルー来日公演(執筆:若林作絵)
1011(水)平富恵スペイン舞踊団(執筆:さとうみちこ)
1012(木)パセオライヴvol.070 ディエゴ・ゴメス(執筆:白井盛雄)
1013(金)谷淑江リサイタル(執筆若林作絵)
1018(水)パセオライヴvol.071 土井まさり(執筆:石井拓人)
1019(木)フェルナンド・デ・ラ・モレナ(執筆:白井盛雄)

パセオフラメンコライヴvol.071
土井まさりソロライブ(取材/石井拓人)
2017年10月18日(水)/東京(高円寺)エスペランサ
(バイレ)土井まさり
(カンテ)ディエゴ・ゴメス
(カンテ)今枝友加
(ギター)長谷川暖

 ソロリサイタルから3年経た土井まさりさんの深化を実感した一時間。
空から降りてくる様々な言葉や啓示を一身に受け徐々に熱気を帯びる様は舞台から片時も目が離せぬ怖さと相反するような愛しさがあり、客席にいる私たちにも言葉が次々と舞い降りてくるようでした。銀杏の葉が落ちてフワリと敷き詰められた絨毯を想起したマルティネーテ。純白のドレスの中に宿る黒い情念。風に舞う言葉の数々。
 例えば鉱山の寡婦、孤児、煤けた空に澱んだ空気。それは何処か遠い世界の話ではなく、何処にでもあるちょっときな臭い空気を反映したようなタラント。何事も決まらず対立し漂流する民意にも揺らぐことなく、何があっても雑草のごとく生きる意志の表明。前向きに明るくなるであろう空を見上げる姿が見えるようで高揚感を感じました。
 人が右往左往する今の日本に、揺らぐことなく己の弱さをさらけ出す。そこから始まる新しい自分自身の進化を謳歌していくソレア。観る者をふんわり包み込むベールのような柔らかい空気。それでいて、切り取った空気は冷たくベッタリざらつく感じがしました。そうした感情を呼び起こす姿は、やはり舞台の上の巫女を感じてしまいます。
 敢えてこの3曲を並べたことで、今の社会への思いを強固に伝えんとする姿勢を感じました。こんなメッセージ性のある舞台は3年前の時には無かったし、日本の風土を反映した土着性のフラメンコへと深化したのだと感じました。どこまでも純粋にフラメンコであろうとする意志と、日本人としての我の中、現時点での折衷案であり進化し続ける完成型でしょうか。次の3年で彼女はどんな方向に突き進むのだろう。その時、どんな立ち姿で私たちを震えさせてくれるのだろう、と楽しみは尽きません。それまで、このライヴの余韻は覚めず、ずっと私を突き動かす動機となり続けるのは間違いない、そんな今夜のフラメンコでした。

★月刊パセオフラメンコ2017年12月号(11/20発売)
公演忘備録(以下の6本掲載)の一部フライング掲載です
0826(土)・27(日)アルテイソレラ/愛の果てに(執筆:さとうみちこ)
0907(木)パセオライヴ Vol.67 石井智子(執筆:白井盛雄)
0914(木)パセオライヴVol.68 奥濱春彦(執筆:若林作絵)
0916(土)エバ・ジェルバブエナ来日公演(執筆:石井拓人)
0917(日)エバ・ジェルバブエナ来日公演(執筆:白井盛雄)
0920(水)パセオライヴ Vol.69 山室弘美(執筆:小山雄二)

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パセオフラメンコライヴVol.069
山室弘美ソロライヴ(取材/小山雄二)
2017年9月20日(水)/東京(高円寺)エスペランサ
【バイレ】山室弘美
【ギター】西井つよし
【カンテ】石塚隆充
【パルマ】吉田光一

 彼女にとってサパテアードは地球(もしくは宇宙)との対話なのかもしれない。シンプルで力強い足技からは、そのまま山室弘美の美意識、あるいは本能がダイレクトに感じとれる。点でとらえても流れでとらえても、そこにはストイックに磨き抜かれた美学があって、その逞しい芯は意外にも、やがてエレガントな光を発する。具体的なのに抽象的な広がりのある、現在進行形なのに未来が視えてくる渾身のファルーカ。タブラオで舞うバイレソロからアントニオ・ガデス舞踊団1986年の初来日ステージを連想したのは初めてのことだ。
 投げても打ってもストライクゾーンは狭いタイプのフラメンカだと想うが、そのまたド真ん中に投げ込む豪速球の重たい球質に観客席はシビれてしまう。プログラムはビダリータ・イ・ファルーカ、ギターソロ(西井つよしのブレリア)、アレグリアス、歌(石塚隆充のアルゼンチンタンゴ)、そしてソレア。ヌメロの踊り分けが未知数だったが、ファルーカ、アレグリ、ソレアと観て、どんな曲種にも深くリンクしながら、彼女ならではの特性がそれぞれ存分に発揮されることが解った。
 知ってる人は知っている領域に棲むアーティストだが、本格派のハードパンチャーである。硬派なバイレフラメンコでありながら、絵画性・音楽性にも充ちている。媚びないユーモアや粋なエピソードも不意に現れ、その愛らしさは純真無垢な可憐さを帯びている。スローモーションのような精緻な緊張感はクレバーさの証しだろう。常に全体を見通す優れた構成力は山室の知性なのか、本能なのか?......それらはおそらく彼女の中でひとつにつながっている。創作・演出にも優れた才能の人であったことをそこで想い出す。パセオライヴの動員記録を更新する超満員御礼。二階最前列に大沼由紀、入交恒子、小島慶子ら大物三人がゴッツリ陣取る光景がとても新鮮だった。