日刊パセオフラメンコ

2018年01月07日 公演忘備録のフライング掲載

★月刊パセオフラメンコ2018年2月号(1/20発売)よりフライング掲載
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スペイン舞踊40周年記念/石井智子スペイン舞踊団公演『ちはやふる・大地の歌』
(取材/井口由美子)

2017年11月4日(土)~11月5日(日)/東京 (北千住)シアター1010
(バイレ)石井智子/エル・フンコ/岩崎蒼生/中島朋子/松田知也/土方憲人/石井智子スペイン舞踊団(ギター)ミゲル・ペレス/オスカル・ラゴ(カンテ)ファン・ホセ・アマドール/マティアス・ロペス/井上泉(チェロ)海野幹雄(ヴァイオリン)三木重人(尺八)佐藤圭将/佐藤亜美(二十五絃筝・筝)4plus(和太鼓)批魅鼓(声明)光澤雄弘(書)桃果

 石井智子の総合力が華開いた舞台。
 近年の公演で彼女は、ペテネーラの生涯やロルカの死生観に身を投じ、生きること死にゆくことの不条理をフラメンコに託して浮き彫りにしてきた。石井特有のエレガンシアに生々しい血を通わせてきたプロセスが彼女の内にある殻を突き破り、今回の新境地に至らせた。洗練されつつも力みは取れ、生きる歓びに溢れた作品群。探求の過程によって今が在る、そのコントラストの鮮やかさが石井の開花の大きさを示す。

 第一部『ちはやふる』は百人一首をテーマとし、和とスペイン舞踊を融合させた創作。石井は十二単をまとい小野小町となり、または神々しい天女となり、艶やかに和歌の世界を体現する。音楽は大陸的な交響詩を思わせ、ことにチェロと尺八によるアストゥリアスが秀逸。プロジェクションマッピングにより和歌が流れるように現れ、月、桜、紅葉と移ろう四季が映し出される。完成度の高い群舞、幻想的な衣裳、和洋の楽器の響き、すべてが自然に溶け合い、まさに一幅の絵巻物の世界が繰り広げられた。第二部『大地の歌』ではホタ、エスクエラ・ボレラ、フラメンコ、ダンサ・エスティリサーダとスペイン舞踊の世界を色彩豊かに綴る。松田知也の妖しさ、土方憲人のストイックな色気、岩崎蒼生の爽やかな成長。出演者、音楽陣含め石井の審美眼の行き届いた構成は適材適所に留まらず個々の可能性を存分に引き出していた。

「長からむ 心もしらず 黒髪の 乱れてけさは ものをこそ思へ」この歌の官能を石井がソロで舞った作品が特に印象に残る。誰もが大切に秘める性愛の切なさを静かに、そして大胆に表現してみせた。肌に残る余韻の愛おしさと虚しさ。石井はそんな情感を原点に抱いて表現するからこそ、その踊りは観る者に寄り添い、胸に深く刻まれる。
 舞踊40周年の節目の舞台は、石井智子の円熟へと向かう、晴れやかな始まりとなった。