日刊パセオフラメンコ

2018年11月20日 「タブラオの芽」

タブラオの芽/2018年11月のエスペランサ
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 記録的に暇だったライヴの日に、フリーで入ってきた初老のサラリーマン風の男から、「淳ちゃん誰だかわかりますか?」と親しげに言われた。咄嗟に昔を振り返り記憶を手繰ってみたのだが、いやはや思い出せない。
 相手が懐かしがるのはよくわかるし、そこは客商売、何とか気を悪くせずに切り抜ける手はないものかと、その場をしのぎつつ懸命に過去の記憶をたどる。まん丸顔の真ん中の目の優しさに、好人物であることを感じた瞬間、そうだ彼だ!と思い出した。
 まだ学生だった頃、今でこそビルメンテナンスなんて格好のいい名前のついた職業だが、兄と一緒に起業したのがその仕事(自分たちは掃除屋と言っていた。)ドムス企画株式会社という名称で発足した時の創立メンバーの1人にその彼の兄がいた。彼は兄と共に、学生時代アルバイトとして数年間一緒にあたらいてくれた仲間だったのだ。
「五反田駅前のビル、乗りだしのガラス清掃は怖かったね」「同じだよ、思い出すたびに足がすくむよ」と昔話に花が咲き、店が暇だったからゆっくり話せたのだから、これはこれでかえって良かったと、例のごとくポジティブに考える。若きあの当時、丸腰にビーチサンダル、半身をビルの外に乗りだしてビルの外側ガラス拭きをしていたのだから、きっと命がけの作業だったに違いない。その頃は痩せていたし身軽だったので富津にこなしていたが、今なら普通に落下は間違いなし。で、この掃除屋の自部署として借りたのがこの店で、当時ギターを習っていた兄たちが中心となり、「フラメンコやっちゃおか」というノリで「カサ・デ・エスペランサ」誕生となったというわけ。店名の名付親は、我らのギターの恩師「勝田保世」先生、名前の由来は今はなきフラメンコ黎明期の大御所「エスペランサ香取」先生だった。
 11月23日、毎年開催するエスペランサ開店記念特別企画の前日、22日の前夜祭には、エスペランサ開店当時からのギタリストたち5人に集まってもらう。関わりの古い順に並べると、鈴木英夫さん(開店前から)、竹下茂さん(初期従業員)、木南利夫さん(お兄さんと)、日野道生さん(すでにプロ)、三澤勝弘さん(日野さんの紹介)となる。カンテもまた、三澤敦子さん、川島桂子さん、柏山美穂さん、森薫里さん、齊藤綾子さんの5人が絡む。
この催しは、みんなが元気でいる限り続けていきたい。
 2019年、まずは自分が元気でいることが肝心。その通りだね。